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健康診断のススメ

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久しぶりの投稿です。

ネタは沢山あるんですが、なんせ筆不精で….。

 

今回は飼い主さんにとっても獣医師にとっても身近な話題、「健康診断」です。

健康診断といっても内容は様々ですし、病院によっても色んなメニューを用意しています。

検査項目にかかわらず健康診断の大きな目的および意義は以下の3つに尽きます。

・健康であることの確認

・隠れている病気の炙り出し

・患者さんのデータの蓄積

最初の2つは特に説明の必要もないかと思います。

ですが、3つめの「データの蓄積」についてはその意義があまり知られていないように感じています。

つまり、検査結果には「正常」と「異常」があり、多くは数値でライン引きされています(例:尿比重の正常値は1.030~1.060 など)。

では、異常値が出れば病気なのかと言われたら、答えは「必ずしもそうではない」となります。

検査の時にたまたまそういう結果が出ただけということもあります(例:たくさん水を飲んでいれば尿比重は正常値より低値が出ますし、体の機能としてはそれが正常なんです)。

また、検査結果が正常値であれば大丈夫なのかと言われたら、答えはやはり「必ずしもそうではない」となります。例えば血液の濃さ(血液中の赤血球の割合)を表すヘマトクリット値という項目があります。

正常値はおよそ40%~60%というところでしょうか。

測定結果が42%でした!やった!正常だ!….….ではありません。

仮に、同じ子の6か月前のヘマトクリット値が55%なら、わずか6カ月で13%下がっているということになります。

それは立派に異常です。高確率で何らかのトラブルが隠れています。

ポイントは、6か月前の検査結果が無ければ、「ヘマトクリット値 42%、正常ですね!」となってしまうということです。同じ検査結果でも、過去のデータの有無で真逆の解釈になってしまいます。

ですので、「元気だし健康診断しなくても大丈夫」ではなく、「元気だからこそ、健康診断のデータを蓄積しておこう」となります。

個人的な意見ですが、多岐にわたる検査項目の中でも特に重要なのが「体重」「ヘマトクリット値」「血中蛋白濃度」だと感じています。

飼育環境に変化がないという前提ですが、この3つの項目が例え正常値の範囲内でも誤差の範疇を超えて下降していれば、ほぼ間違いなく病気が水面下で進行してます。

この確信があれば、他の検査結果が正常でも「健康ですね」ではなく「今日の検査項目に異常がないので、次はこういう項目を調べます」とか「異常値は検出されていませんが今後こういう変化に気を付けてください」という提案になります。

健康診断はその時の数値だけで判断するだけでは不十分で、その子の経時的変化を追っていくことも重要であるということです。

年に1~2回は検診しましょうね。

 

長い前振りになりましたが、今回は健康診断で色々見つかり大惨事になる前に完治できた患者さんの話です。

オスのチワワで、飼い主さんの親族の方が飼ってらっしゃったのを引き取ったそうです。

なので詳細な経緯は不明でした。

ぬいぐるみみたいなフォルムです 😀

かわいいっすね 😆

シニア犬なんですが、そうは見えません。

この子は皮膚のかゆみで受診しましたが、高齢になってからの皮膚症状だったため、念のための健康診断を行いました。というのも、普通は皮膚のかゆみは若いうちに発症するものなんです。高齢になってからの皮膚症状は、バックに病気やホルモン異常、腫瘍などが隠れていることがあります。

ってことで、健康診断開始!

血液検査では異常がありませんでしたが、エコー検査にて「脾臓の腫瘤」と「前立腺の肥大」が見つかりました。

これ2つとも大問題です。ちなみに他の項目には異常は見つかりませんでした。

脾臓腫瘤については、これは獣医師の間では有名な「3分の2のルール」というものがあります。つまり「脾臓の腫瘤の3分の2は悪性腫瘍で、さらにその3分の2は血管肉腫である」というものです。2/3 × 2/3=4/9≒50%となり、脾臓でできものが見つかれば50%の確率で血管肉腫である!という極めて乱暴な説です。 ただ、私個人はこの説には補足が必要だと感じています(もしかしたらそういう論文もすでに出ているかもしれませんが)。今まで、脾臓の腫瘤なんて山ほど摘出してきましたが、血管肉腫だったことは数える程度です。おそらく、脾臓の腫瘤のなかでも、重度の腹腔内出血を伴うなど手術での摘出を「余儀なくされる」脾臓腫瘤の50%が血管肉腫なんだと思います。それなら私も経験的に納得できます。

もう一つの前立腺肥大ですが、これは前立腺肥大そのものは年齢行くと皆なることなんで良いのですけど、この子は身体検査にて精巣も陰嚢も見当たりませんでした。今の飼い主さんも最近引き取ったとのことで詳細なことはわからないとのことでしたから、てっきり去勢手術済みだと思っていました。

しかし、去勢手術をしている子の前立腺が腫れているとなると、これは大変です。加齢性前立腺肥大ではなく、前立腺癌の可能性が高くなるからです。しかし、この子の前立腺は癌というには規則正しい腫れ方で、加齢性の前立腺肥大にそっくりでした(癌性と加齢性ではエコー検査での見え方に違いがあります)。非常に不可解な現象です。

 

どちらにしても脾臓の腫瘤は摘出すべきだということになりました。エコー検査では脾臓腫瘤が良性か悪性か判断は難しいですが、このまま大きくなればいずれお腹の中で出血することが予想されるからです。

脾臓の周囲への癒着や出血の有無の確認もかねて手術時にCT検査も行うことになりました。動物のCT検査には基本的に麻酔が必要です。痛いとかじゃなく、じっとしないからです。人間なら「はい、そのまま動かないでくださいねー。はい、息を吸ってー、そのまま止めてー。」でいいんですけど、犬は言う通りにしてくれません。だから麻酔下で人工呼吸器で、「じっとしてー、息吸ってー、止めて、吐いてー」というのを人の手でコントロールするんですね。

下の写真は、ワンちゃんを仰向けにしてCT撮影した画像を3Dにしたものです。

①の断面が下のCT画像になります。緑の〇で囲んでるのが脾臓の腫瘤ですね。脾臓の他の部分と色合いが同じなので、悪性腫瘍の可能性は低そうです。癒着や出血、腹膜炎などの所見もありませんでした。

 

次に②の断面が下の画像です。黄色い〇で囲っているものは何でしょうか。本来はこの場所にこんなものは見えないのです。考えられるものは停留精巣です。しかもちょっと大きいです。腫瘍になっているかもしれません。

この子には精巣も陰嚢もなかったので、私はてっきり前の飼い主さんが去勢手術を実施しているものと思っていました。どうやら精巣が隠れているだけだったようです。

 

次に③の断面が下の画像になります。黄色い〇で囲っているものも、本来この場所にこんなものはありません。これも位置的に停留精巣の可能性が高そうです。この画像で見える左の停留精巣は腫瘍化していそうです。CTでの見え方やサイズが明らかに異常です。

赤い丸で囲っているのは肥大した前立腺です。CT画像では白っぽく見えて、左右対称に腫れています。これは加齢性の肥大の場合の見え方です。去勢手術を実施していない子であれば、極めて当たり前の所見ですね。

 

CT撮影後、そのまま手術へ移行し、無事に脾臓と精巣を摘出しました。

脾臓は良性のものでしたが、精巣は悪性腫瘍でした。見つかってよかったです!

皮膚のかゆみに始まり、芋づる式に色んな異常が見つかり一網打尽にできました。皮膚のかゆみも少し落ち着いているようです。

この子のように、たとえ元気でも、何が隠れているかわかりません。

元気なうちにちゃんと調べて治すべきものはちゃんと治しましょう。

というお話でした。

健康診断は特に予約は不要です。外来診察中に言ってもらったらその場で実施できます。

いつでもお気軽にお声がけください。

 

 

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