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診察室のよもやま話 ~避妊手術したほうがいいですか?~

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こんにちは。院長の稲村です。

前回の投稿から早4か月。気にはなっているもののなかなか筆が進まず、です。

ネタはあるんですよ、ネタは。ただ、中々それを形にするのが腰が重いんです(笑)

写真撮るの基本的に嫌いなんです(笑)

 

ってことで、これから定期的に、診察室でよくある質問をこのブログで紹介して飼い主さんの疑問を少しでも解消できればと思います。

学術的根拠を示せるものもあれば、完全に個人的見解のものもあります。独り言として聞いてください。

 

さて、今回は獣医にとってもっとも一般的な手術で飼い主さんにとっても最初に直面する問題である「避妊手術」についてです。

今も昔も、犬や猫に避妊手術をするのは一般的ですね。

しかしその一方で、やはり健康な動物に手術を施し、内臓を取り除くことが人道に反するのではないかと葛藤する飼い主さんも多くいらっしゃいます。

仕事柄、飼い主さんから避妊手術に関しては結構相談を受けます。

避妊手術に関して多い質問は以下のものです。

 

1. 避妊手術、やったほうがいいですか?(やるかどうか)

2. 避妊手術、いつごろにやったらいいですか?(やる前提で)

3. うちの子、発情始まっちゃいました。手術して大丈夫ですか?(手術予定日に近い日で)

4. 避妊手術、何歳までできますか?(3〜5歳くらいの子の飼い主さんで多い質問)

5. 〇〇の避妊手術できますか?

 

他にもいろいろ聞かれますが、上位5つはこんな感じです。

なんだかんだで①に集約されるのではないでしょうか。

避妊手術については、現在の日本では「実施すべきもの」というのが主流の考え方であるように感じています。法的な規制は一切ないので最終的には飼い主さんの任意ですが、ネットを検索すりゃ、やって当たり前でしょ的な、むしろやらないって飼い主としてどうなの?的な、飼い主のマナーでしょ?っていうニュアンスの記載まで見受けられます。

 

では避妊手術は実際のところ本当に実施すべき手術なんでしょうか?

実はこれ、国によってかなり考え方が違います。

日本の獣医療は主にアメリカから入ってきているので、アメリカの考え方が主流になる傾向にあります。避妊手術も、アメリカ流の考え方でして、ざっくりまとめると「将来的に病気を発症するリスクが高いんだから病気になる前に取っちゃいなよ!」ってことになります。アメリカはペット先進国であり統計データに基づく合理的な考え方が根付いています。

ちなみに正常な子宮ってこんな感じです。

短くて細いですね。生後6ヶ月くらいの子の子宮です。

 

さて一方、同じペット先進国である北欧ではだいぶ事情が異なります。

まず避妊や去勢に対しかなりネガティブです。理由は諸説ありますが、一番はやはり宗教国であることじゃないかと思います。自然への畏れを持っていると言ってもいいかと思います。つまり、「持って生まれたものを人間が勝手に取り除くのは動物や自然や神への冒涜である!」という考え方ですね。また北欧の方では、ペットは人間の生活に自然に溶け込んでいますので電車にも乗れるしレストランにも入れますしアパートに住むのも許可は必要ありません。本当に「家族」なんですね。だから「自分の娘なら予防的な避妊手術なんてしないだろ?たとえ将来の病気のリスクがあったって残してやりたいと思うんじゃないか?」ということですね。これはこれでちゃんと筋の通った考え方であるように思います。

ちなみに、病気になった子宮ってこんなんなります。

トイプードルのお腹の中にこんなん入ってると、パンパンになります。

この写真は子宮蓄膿症という病気の写真です。

避妊してないと50%以上の確率でかかってしまう病気だと言われています。

 

ちなみにアジア諸国では「え?犬に手術?そんなことできるんですか?」という感じの地域もあるようです。

 

さて、②についてですが、ちょっと前までは「初回発情前に実施しないとダメ」、とか「3歳以降に手術しても無駄」とか、避妊を推奨する根拠となった論文を間違って解釈した説が横行していたことがありました。

ぶっちゃけると避妊するのは(犬の場合は)何歳でもいいです。乳腺腫瘍の予防の観点なら早い方がいいですが、小型犬の乳腺腫瘍の多くは良性ですし、早期発見ができますし、あまり問題にならないように思います。むしろお腹の中で進行して症状を出す頃には命に関わる状態になっていることが多い子宮蓄膿症の方がよっぽど怖いですね。発症前であれば6歳でも8歳でも避妊の意義はしっかりあります。

ちなみに下の写真は将来の子宮疾患の予備軍です。もちろん無症状です。

卵巣が水疱のようになってますね。子宮の一部も腫れてます。

 

で、③については時々問い合わせがあります。

すでに避妊の予定日が決まっていて、その日に近い日に発情が始まるパターンですね。

これは、発情の有無に関係なく手術実施可能です。

発情中は手術しないという動物病院もありますし、関係なく手術を実施する動物病院もあります。病院ごとに見解が異なるという感じでしょうか。

ただ発情中のホルモンバランスが手術のリスクを高めるということはありません。

せいぜい、子宮や卵巣につながる血管や乳腺の血管が太くなってて、止血の作業が増えるということくらいでしょうか。

当院では手術を延期する必要はないと説明していますが、飼い主さんが心配で「延期したい」と意思表示してもらえれば、延期しています。

※「発情中に手術して大丈夫ですか?」と問い合わせてきて、「大丈夫ですよ」と返答すると異議を唱えてくる方が時々ですがいらっしゃいます。「心配なので延期したいです」と言ってくれれば延期します(飼い主さんの意思を尊重します)ので、遠慮なしにそのようにおっしゃってください。「発情中に手術しても大丈夫ですか?」と聞かれたら「大丈夫です」という返答になります。

 

④の何歳までできますか、という質問については、動物種によります。

猫と兎は早いに越したことはないです。犬は何歳でもいいです。

猫はやはり乳癌の発症が恐ろしいので早期の避妊でしっかり予防したいです。猫の乳癌はできれば遭遇したくない疾患の一つですね。手術も大きくなりますし術後の投薬も長期にわたります。

兎も避妊手術は早い方がいいです。兎は高確率で子宮疾患になりますし、無症状で水面下で進行して、体調不良など症状として出る頃(飼い主さんが異変に気づく頃)には手遅れになってることも少なくありません。

元気だし大丈夫ではなく、元気なうちに手を打ちましょう、となります。

この写真は、兎の子宮です。3歳でしたがすでに病気の片鱗を見せ始めてます。

 

色がドス黒く、一部腫れてます。幸い、まだ癌の発症はありませんでしたが予備段階には入っていたようです。

 

⑤については、哺乳類であれば基本的にどの動物種でも避妊手術は実施しています。

体が小さい動物ほど、作業が繊細になりますが基本的な術式は同じですね。

具体的には、ハムスター、モルモット、ハリネズミ、兎、モモンガ、ラットあたりが犬猫以外では問い合わせが多いですね。

 

私個人は避妊手術は「必要悪」の部類に入ると思っています。しかし、こればっかりは各々の価値観だと思います。

だからこそ避妊手術をするもしないも押し付けになるべきではなく、飼い主さんが責任をもって判断することだと考えてます。昨今のネット社会では情報の氾濫もあり、飼い主さんも混乱傾向になりますが、心配事はお気軽にご相談ください。

 

いやー、正解のない話って難しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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