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腫瘍の治療と超人血盟軍

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こんにちは。院長の稲村です。

先日の診察でのやりとりです。

患者さん:「最近ブログの更新してないですね」

スタッフ:「院長がブログなんか続くわけないやん」

スタッフ:「最初から分かりきってたし」

などなどありまして、重い腰を上げて更新です。

 

皆さんはキン肉マンの作中に登場する超人血盟軍をご存知でしょうか。

超人血盟軍は正義超人、悪魔超人の垣根を越えて超人界の未曽有の危機に立ち向かう勇士だそうです。

戦いの際には陣形を組んで仲間を鼓舞します。

Xの陣形:敵の攻撃に注意せよ

Vの陣形:休まず攻めろ

Lの陣形:最後まで望みを捨てるな

 

これ、病気の治療にも通じる考え方ですね。当院スタッフにもことあるごとに言ってます。

今日はLの陣形で闘病中のボーダーコリーちゃんのお話です。

上の写真は治療開始後、ちょっと元気になってからの写真です。

このワンちゃんは、最初、呼吸がしんどくて主治医さんにかかりました。

その際、胸の中に大きな腫瘍が見つかりました。胸の中に水もたまり、非常に危ない状態でした。

主治医さんで実施した細胞の検査では診断に結びつく所見が得られなかったようです。

これからの治療方針を決めるうえでCT検査を提案され、当院を受診しました。

一口に腫瘍と言っても何種類もあり、それぞれで治療法も望める余命も変わってきます。

なので治療を始める際には、やはり確定診断がつくことが望ましいのです。

 

腫瘍治療の原則

・敵を知る(確定診断):有効な治療法がわかる、今後どうなっていくのか予想がつく

・患者を知る:腫瘍がどこまで進んでいるのか、他の基礎疾患や併発疾患がないか(=適切な治療法の決定)

・己を知る:実施可能な治療法の選択

 

CT検査というのは腫瘍の確定診断を付ける検査ではありませんが、腫瘍が良性か悪性か、どこまでどのように広がっているのか、他の病気がないのかということについては詳しく知ることができます。

CT検査実施の前に血液検査と胸部レントゲンの検査を実施しました。

 

青い丸が腫瘍、赤い丸が心臓、黄色い丸が肺です。

肺はかなり圧迫され、心臓は不明瞭(=腫瘍と密着してる=腫瘍が巨大)です。

単純X線検査でも相当悪いのが見て取れます。

ワンちゃんも呼吸がかなりしんどそうであり、早急に有効な治療法を決定する必要がありそうです。

本来、CTは別日に設定するのですが、急遽、即日のCT検査になりました。

 

この写真も、青い丸が腫瘍で赤い丸が心臓です。

腫瘍が心臓と肺を圧迫してます。さらに詳細を見ると胸の中から皮膚の下に飛び出している部分や、心臓から出る動脈の一部を巻き込んでいました。

したがって手術は不適応であると判断されました。

だからと言って何もできないわけじゃありません。

ここで大切なのは、あきらめないことです。

そう、つまり….

繰り返しになりますがキン肉マンを知らない皆さんに説明します。

これはどういうことかというと….

飼い主さんが諦めない限り、獣医師も諦めません。

飼い主さんの望みはしんどい呼吸を少しでも楽にしてあげること。

そのためにはやはり腫瘍を何とかしないとだめです。腫瘍が心臓と肺を圧迫してしんどいのだから。

ということで、飼い主さんと相談の上、分子標的薬というお薬での治療を開始しました。

分子標的薬とは、様々な病気に特有の分子にくっついて無効化し病気を抑えるお薬です。

腫瘍の治療薬にも分子標的薬はあります。

よく抗がん剤と勘違いされるのですが、抗がん剤とは全く別物です。

どのように違うのかというと….

 

・抗がん剤:細胞を殺す薬=がん細胞以外の正常な細胞も傷害を受ける=副作用

・分子標的薬:がん細胞の表面にある分子に作用する=正常な細胞は影響を受けない=副作用が少ない

 

これはあくまで理論的な話ですから、副作用が有るとか無いとか患者さんごとに違いますけど、

やっぱり抗がん剤より良く効くし副作用は少ないですね。

約2週間投与した後のレントゲンがこちら。

 

左が投薬後、右が投薬前です。

肺が膨らみ、心臓が明瞭に見えます。

これは腫瘍のサイズが小さくなったことを意味します。

ワンちゃんもかなり調子が良いそうで、飼い主さんにも喜んでいただいております。

まだまだ油断できませんが、もうしばらく投薬を続けていく予定です。

そう、つまり…

 

・Xの陣形:敵の攻撃に注意せよ=腫瘍の再燃に気をつけろ

・Vの陣形:休まず攻めろ=投薬を続ける

 

このまま腫瘍が消えてくれればと願う毎日です。

 

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